元役員への法的措置を誇るなら、その前に株主へ説明することがあるのではないか
世界初の「組合費無料ユニオン」は、会社と喧嘩をするために存在しているわけではない。
会社の中で声を上げにくい人が、お金を払わなくても、経営者に「それはおかしくないですか」と言える場所をつくる。
それだけである。
今回、その問いを株式会社ラストワンマイルに向ける。
同社は現在、東証グロース市場に上場する証券コード9252の上場会社であり、渡辺誠氏は代表取締役会長兼CEOを務めている。
だからこそ、問いたい。
元役員に何を「仕掛けた」のかを社内で語る前に、その元役員をめぐって会社が何を知り、何を経験し、それを市場にどう説明したのかを語るべきではないか。
幹部が恐れているのは「法的措置」そのものではない
当ユニオンには、現役幹部らから、渡辺氏が元役員らに対して法的措置を「仕掛けた」という趣旨の発言をしたとの申告が寄せられている。
もちろん、会社や経営者が正当な権利を守るために法的措置を講じること自体は何ら問題ではない。
問題は、そこで終わらない。
その話を聞いた幹部らからは、
「退職した後、自分も同じようにされるのではないか」
「法的措置が権利救済ではなく、見せしめのように聞こえる」
「職場の雰囲気が、企業というより反社会的な組織のように感じられて怖い」
という趣旨の不安が寄せられている。
これは、渡辺氏を「脅迫した」と断定する話ではない。
むしろ逆だ。
経営トップの言葉を、現に働く幹部がどう受け止め、就業環境がどうなっているのかという労務問題である。
厚生労働省は、優越的な関係を背景とした言動によって就業環境が害されないよう、事業主に相談体制の整備、事実確認、適切な対応、再発防止等を求めている。相談や事実確認への協力を理由とする不利益取扱いも禁止されている。
「冗談だった」「受け取り方の問題だ」で終わる話ではない。
現役幹部が恐怖を感じ、改善を求めているなら、会社はまず事実を確認すればよい。
そして、もっと大きな問題が出てきた
幹部らから寄せられた情報によれば、渡辺氏は当該元役員について、「在任中の行為に関連する脱税事件や起訴事件の内容を把握している」という趣旨の説明をしているとされる。
しかも、一件ではなく、二件に関する情報を把握しているとの申告である。
ここで話は一気に変わる。
当ユニオンは、その元役員が犯罪を行ったと認定する立場にはない。
裁判所が認定していない事実を、ユニオンが先に犯罪と決めつけるつもりもない。
公開されていない起訴状をどうやって入手して発言しているのかも、興味が集まる。
しかし、
「代表取締役が、その元役員の在任中の行為に関係する刑事事件について詳しい内容を把握している」
というのであれば、それは会社自身に対する説明責任の問題になる。
さらに幹部らからは、その事件につながる強制調査を株式会社ラストワンマイル自身も渡辺誠氏本人も受けていたとの情報まで寄せられている。
これが事実なら、極めて単純な疑問が生じる。
会社は、いつ知ったのか。
取締役会は、いつ知ったのか。
監査等委員会は、いつ知ったのか。
会計監査人には伝えたのか。
そして、東証への適時開示の要否を、いつ、誰が、どの資料で判断したのか。
「捜査を受けたら必ずIR」ではない。だからこそ、ごまかせない
ここは正確に書いておきたい。
上場会社が捜査や税務調査を受けたからといって、すべてが機械的に適時開示になるわけではない。
しかし、それで話は終わらない。
東京証券取引所は、上場会社について、個別に列挙された開示事項だけでなく、
「会社の運営、業務若しくは財産又は上場株券等に関する重要な事実であって、投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすもの」
が発生した場合には、直ちに開示することを求めている。
いわゆる「バスケット条項」である。
しかも東証は、個別項目の軽微基準に当たる場合や、そもそも個別項目に該当しない場合であっても、実質的に投資判断への影響が重要なら開示要否を検討しなければならないと明示している。
さらに、重要な発生事実は、形式的な取締役会決議の日ではなく、会社がその事実を認識した時点から迅速な開示が問題になる。東証は、重要な会社情報について「直ちに」開示することを求めている。
つまり問われるのは、
「強制調査」という四文字だけではない。
元役員の在任中の行為なのか。
会社自身が調査対象になったのか。
会社の取引、会計、税務、資金移動、内部統制と関係していたのか。
当時の取締役らが認識していたのか。
現在の代表取締役が刑事事件の具体的内容を把握できるほどの情報を保有しているのか。
それらを総合して投資家の判断に著しい影響を与える情報だったのか。
ここを説明する必要がある。
元役員への「法的措置」にも開示論点はある
さらに興味深いのは、渡辺氏が元役員らに対して法的措置を仕掛けたという部分である。
ここでも制度は意外に明快だ。
会社自身が原告となって訴訟を提起した場合、それだけで「訴訟の提起」の個別開示項目に自動的に該当するわけではない。
しかし東証は、その場合でも「その他重要な決定事実」――つまりバスケット条項――によって開示要否を検討するよう明示している。
役員個人が訴訟当事者となった場合についても、個別の訴訟項目ではなく、「その他重要な発生事実」としての開示要否を検討する仕組みになっている。
だから、「会社が原告だから開示不要」という一行では逃げられない。
何のための法的措置なのか。
会社の費用を使ったのか。
会社の人的資源を使ったのか。
元役員の在任中の会社業務に関する問題なのか。
刑事事件や強制調査と関連するのか。
会社の損害回復を目的とするのか。
その内容次第である。
「金融庁への報告」も、正確に整理しよう
金融庁についても同じである。
「刑事事件があれば何でも金融庁に電話して報告する」という制度ではない。
上場会社には金融商品取引法に基づく有価証券報告書、半期報告書、臨時報告書、内部統制報告書などの法定開示制度が存在する。
金融商品取引法24条の5第4項は、内閣府令で定める一定の重要事象が生じた場合、臨時報告書を遅滞なく提出する制度を置いている。
たとえば提出会社に対する一定規模以上の訴訟等については、企業内容等の開示に関する内閣府令19条に具体的な提出基準が置かれている。
したがって、本件で本当に確認すべきなのは、
「金融庁に報告したか、していないか」という雑な二択ではない。
その事実を有価証券報告書等へ反映する必要はなかったのか。
臨時報告書の提出事由に該当しなかったのか。
内部統制上の評価に影響しなかったのか。
既に提出した開示書類に訂正を要する重要な情報は存在しなかったのか。
そこまで確認して初めて、「法定開示上問題ありませんでした」と言える。
一世を風靡した、鹿児島地検と福岡高検、熊本国税局がまき散らした馬見塚メモが本当に「不正」を記載した資料なら、さらに話は重くなる
そして、もう一つ確認しなければならない。
関係者間で「馬見塚メモ」と呼ばれている資料である。
仮にこの資料に、当該元役員だけではなく、株式会社ラストワンマイルの取引、資金移動、複数の役員その他関係者の行為が「不正」として記載されていたのであれば、会社は内容を精査しなければならない。
重要なのは、メモを書いた人物が正しかったかどうかではない。
間違っていたなら、間違っていたと調査して示せばよい。
一部が正しかったなら、どこまでが正しかったのかを確認すればよい。
最も説明しにくいのは、
元役員を追及するときだけ馬見塚メモや刑事事件の情報を使い、自社や現経営陣に関係する部分になると市場へ何も説明しない
という状態である。
上場会社に求められるのは、人物によって調査基準を変えることではない。
同じ事実には、同じ物差しを当てることである。
ラストワンマイルに、七つだけ聞きたい
当ユニオンが求めるのは、誰かの逮捕でも、誰かの失脚でもない。
説明である。
- 渡辺誠氏は、元役員について「自ら法的措置を仕掛けた」という趣旨の発言を幹部らにしましたか。
- 渡辺氏は、その元役員に関係する二件の刑事事件・起訴内容を、いつ、どのような立場で把握しましたか。
- 当該事件につながる国税その他の強制調査を、株式会社ラストワンマイル自身が受けた事実はありますか。
- その対象となった行為が元役員のラストワンマイル在任中の行為である場合、取締役会、監査等委員会、会計監査人はいつ認識しましたか。
- 東証上場規程上の「その他重要な発生事実」等について、適時開示の要否をいつ、誰が判断しましたか。
- 金融商品取引法上の法定開示、有価証券報告書、内部統制報告書その他の開示への影響を検討しましたか。
- 馬見塚メモ等に、他の役員や会社取引に関する不正疑義が記載されていたのであれば、元役員だけでなく全関係者を同じ基準で調査しますか。
元役員を追う会社なのか。自分たちも調べられる会社なのか。
企業のコンプライアンスは、敵に厳しいことで証明されるものではない。
自分たちにも同じ基準を適用できることで証明される。
元役員に法的措置を講じる。
結構である。
不正があるなら調査する。
当然である。
しかし、それを現役幹部の前で語るほど刑事事件の内容を把握しているのであれば、次に説明する相手は元役員ではない。
株主であり、市場であり、現在そこで働いている従業員である。
株式会社ラストワンマイル自身も強制調査を受けていたという情報が事実なのか。
元役員の在任中の行為と、後の刑事事件はどのようにつながるのか。
他の役員・関係者について不正疑義はなかったのか。
なぜ適時開示を要しないと判断したのか。
少なくとも当ユニオンが2026年9月24日時点で確認した同社の公開IR情報からは、これらの疑問に正面から回答する開示を確認できていない。同社IRサイトには2026年のニュース・IR情報が掲載されているが、本件を直接説明する公表は検索上確認できなかった。
だから、答えてもらえばよい。
「仕掛けた」という話より、「開示した」という話を聞きたい。
上場会社なら、その方がよほど強い。
東証が求めているのは、威勢のよい社内発言ではない。
投資者の判断に重要な影響を与える事実についての、迅速で、正確で、公平な情報開示である。
世界初の組合費無料ユニオンは、数日内に会社から何らかの説明、調査開始、または必要な開示が行われるのかを注視する。
そして何も公表されないのであれば、次に問うことはさらに単純になる。
「開示しなかった」のではなく、
「開示不要と誰が判断したのか」。
そこまで、確認する。
