株式会社ラストワンマイルの従業員向け労務研修で、代表取締役会長兼CEOの渡辺誠氏が、社会保険及び雇用保険の手続について、入社から1か月遅らせる案を示していたことが、現ラストワンマイル在籍者から労働組合へ提供された動画から判明しました。
短期間で退職する従業員のために手続費用を負担する必要はないという発想から、会社の事務手続上の理由を後から作り、加入手続そのものを遅らせるよう説明しています。
「入社して1か月後に申請を出す」
研修では、従業員が入社した後、いつ社会保険の手続へ移るのかという話題になりました。担当者が、短期間で辞めそうな従業員については手続をすぐに始めない場合があると説明すると、渡辺誠氏は、個別判断ではなく全員の手続を遅らせる仕組みを提案しました。
「社会保険の手続には全部コストがかかる。基本的に、いつ申請するかを社内の事務手続として決めておけばよい。入社して1か月後に申請を出すとかです」
「入って3日や1週間で辞める人も多い。その人のためにコストをかけなくてよい。社会保険や雇用保険の手続に入るのを、そもそも1か月ずらしておけばよい」
社会保険は、従業員が会社に長く定着したことへの褒賞ではありません。加入要件を満たした日から資格が生じる制度であり、会社が1か月様子を見てから加入させるかどうかを決める試用サービスでもありません。
病気になった人だけ「特例申請」
渡辺誠氏は、早急に保険証が必要な人だけ、特別に申請すればよいとも説明しています。
「早急に病気で保険証が必要な方は、特例申請を出してくださいでよい。会社の事務手続上、保険証が出るまで1か月、1か月半かかりますでよい」
しかし、健康保険が必要になるかどうかは、病気になってから会社へ申告して決める問題ではありません。従業員本人だけでなく、扶養家族の通院、出産、事故、継続治療にも影響します。
また、保険証等の資格確認手段が届く時期と、資格取得届を提出すべき時期は同じではありません。手元に資格確認書が届くまで時間がかかることを理由として、会社が資格取得手続自体を遅らせてよいことにはなりません。
先に遅らせると決めてから「理由を作る」
この研修で最も問題なのは、法令上許される期限を確認した結果として事務フローを設計したのではなく、先に1か月遅らせるという結論を置き、後から理由を作るよう求めている点です。
「事務手続上、確認が必要だからとか、理由は作ってもらう」
「建前はしっかりすればよいから。法に違反しないように」
法令を守るために手続を設計することと、実際の目的を隠すために建前を整えることは正反対です。
目的が「短期退職者にかかる事務コストを節約すること」であるにもかかわらず、外部には「書類確認に時間がかかった」と説明するのであれば、その説明は事実なのでしょうか。それとも、渡辺誠氏自身が言うとおり、後から作られた理由なのでしょうか。
従業員の権利より、会社の事務コストが先ですか
社会保険や雇用保険の手続には、確かに事務コストがかかります。しかし、それは従業員を雇用する会社が負担すべき基本的な管理コストです。
給与計算が面倒だから給与を翌月へ回すことが許されないように、短期退職の可能性があるから社会保険手続を一律に遅らせてよいわけではありません。
むしろ、入社と退職が頻繁に繰り返されるのであれば、なぜ従業員が短期間で辞めるのか、採用方法、教育方法、職場環境、労働条件に問題がないかを確認するのが経営者の役割です。退職者が多いから社会保険手続を後回しにするという発想は、原因ではなく従業員側の権利だけを削っています。
株式会社ラストワンマイルへの公開質問
- 入社した従業員の社会保険手続を、原則として1か月遅らせる運用は実際に導入されましたか。
- 雇用保険についても、同様に1か月間手続を開始しない運用がありましたか。
- 入社日から届出日まで1か月以上経過した事例は、何件ありますか。
- 「事務手続上確認が必要」という理由は、個々の従業員について実際に確認事項が存在していたのですか。
- 手続を遅らせた期間中に医療機関を受診した従業員又は扶養家族はいましたか。
- 取締役会、監査等委員会及び社会保険労務士は、この研修内容を把握していましたか。
- 現在も同様の方針を維持していますか。
「法に違反しないように建前を作る」は、コンプライアンスではありません
本当に適法な運用であれば、理由を作る必要はありません。実際の目的、実際の処理日、実際の法的根拠をそのまま説明すれば済むからです。
会社の費用を削減するために手続を遅らせ、従業員には別の理由を示す。そのうえで「建前はしっかりすればよい」と教える経営研修は、法令遵守の研修ではなく、法令遵守に見える外形の作り方を教える研修になっていないでしょうか。
株式会社ラストワンマイルは、従業員へ何を教え、実際にどのような手続を行っていたのか、対象者数を含めて説明すべきです。
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