一般に、企業が上場すれば、株主、投資家、顧客、取引所、監査人に対する説明責任は重くなります。財務報告、情報管理、法令遵守、取締役会の監督、内部統制についても、非上場時より高い信頼性が求められます。
ところが、現ラストワンマイル在籍者から当組合に情報提供された株式会社ラストワンマイルの複数の従業員研修では、代表取締役会長兼CEOの渡辺誠氏が、これとは逆の考え方を繰り返しています。
上場する前は一件のミスも起こさないように厳しく管理する必要があったが、上場を終えた後は、多少の間違いや法的問題が起きてもよいという説明です。
「もう上場しているから、たまに間違えてよい」
「上場前は決裁権を高くしていた。一件たりともミスしてはいけなかったからです。もう上場しているのだから、決裁権は低くてよい。たまに間違えてもよい」
上場は、厳しい統制を一時的に演じて通過する入学試験ではありません。上場後も継続的に投資家から資金を預かり、市場で株式が取引されるからこそ、内部統制を維持し、改善し続ける必要があります。
上場前だけ書類を整え、審査を通過した後は管理を緩めるのであれば、上場審査で示した体制は、投資家へ長期的に約束した経営基盤ではなく、上場するためだけの舞台装置だったのでしょうか。
「上場前は厳しくやったが、今はやらなくてよい」
退職書類の回収や保存について議論した場面でも、渡辺誠氏は、上場前と上場後で基準が変わったと説明しています。
「上場前は基準が違ったから厳しくやっていたけれど、今はやらなくてよい。自分たちのコストの方が高いから、全部省いてよい」
「書類が取れなかったら取れなかったでよい。無視。いらない」
保存義務や証拠価値は、会社が上場した日に消滅するものではありません。むしろ、上場後は従業員、取引、訴訟、行政対応、内部通報、監査の規模が拡大し、適切な記録管理の重要性も高まります。
上場廃止にならなければよい
法務研修では、会社が最も避けるべきリスクについて、次のように説明されています。
「うちが一番踏んではいけないリスクは、損害金ではない。上場廃止です」
上場廃止を避けることは重要です。しかし、法令、顧客情報、従業員の権利、取引先との契約を守る理由が「上場廃止になるかどうか」だけであれば、上場廃止に直結しない問題は全て許容できることになります。
顧客リストを無断転売しても、訴えられる確率が低ければ実行する。情報漏洩の可能性があっても、監査に耐えれば実行する。会社カードを私的利用する従業員がいても、会社が潰れなければ受け入れる。会計が1000万円ずれても、経営に支障がなければよい。
7本の研修を横断すると、これらは偶然の失言ではなく、全て同じ判断基準から生まれていることが分かります。
「適法性」ではなく「会社が耐えられるか」
渡辺誠氏の経営判断は、行為が正しいかではなく、会社が損害に耐えられるかを中心に組み立てられています。
しかし、会社が支払える金額だから他者の権利を侵害してよいという考え方は、制裁金をサービス利用料のように扱うものです。
信号無視の罰金を払える会社なら、営業車は毎日信号を無視してよいのでしょうか。事故が起きたら会社が賠償すればよいのでしょうか。
法令遵守は、違反時の費用が利益を下回るかを計算する制度ではありません。
内部統制部門を営業利益の下へ置く
法務部は適法性を判断せず、リスク確率を営業へ渡す。情報システム部は危険だから駄目と言わず、監査に耐えるギリギリの線を示す。経理部は正確性を追求せず、経営に支障がない差額を許容する。労務部は他部署への影響を考えず、自分たちの作業を減らす。
それぞれの部門が独立して会社へブレーキをかけるのではなく、営業利益を最大化するために、どこまで危険に近づけるかを計算する部署へ作り替えられています。
車に例えるなら、ブレーキを外したのではありません。ブレーキ担当者へ、車を止めるな、崖まで何メートル残っているかだけ報告しろと命じているのです。
取締役会と監査等委員会への公開質問
- 「もう上場したから、たまに間違えてよい」とする研修内容を把握していましたか。
- 上場前に導入した統制のうち、上場後に廃止又は緩和したものを具体的に開示できますか。
- 統制を緩和する際、取締役会又は監査等委員会による審議は行われましたか。
- 法務、経理、労務、総務、情報システム部門が、営業又は経営者の判断を拒否できる権限はありますか。
- 上場廃止に直結しない法令違反又は契約違反を、会社が受容可能なリスクとして扱っていますか。
- 研修内容と現在公表しているコーポレートガバナンス方針との整合性を、どのように説明しますか。
上場はゴールテープではありません
上場した後に必要なのは、管理を弱めることではなく、株主から預かった会社を継続的に監督することです。
上場前だけ厳しく、上場後は間違えてもよいという会社があるなら、投資家は上場審査時の統制を何のために信じたのでしょうか。
株式会社ラストワンマイルの経営陣は、「もう上場したから」という言葉で何を省略し、何を許容し、どのような事故を飲み込んできたのか、具体的に説明する必要があります。
渡辺誠社長の危険思想を植え付けるための恐怖の社員研修シリーズ
- 【1】「バレる確率1%なら顧客リストを転売」渡辺誠CEOが法務部へ教えた発覚確率コンプライアンス
- 【2】「社会保険は1か月遅らせ、理由を作る」渡辺誠CEOの労務研修を検証
- 【3】「監査に耐えれば情報漏洩することもある」渡辺誠CEOの営業寄りセキュリティ論
- 【4】「会社カードを飲み屋で使う奴がいても、まあいい」渡辺誠CEOの事後処罰型内部統制
- 【5】「会計は1000万円ずれてもいい」渡辺誠CEOが経理部へ教えた驚きの数字管理
- 【6】「もう上場したから、たまに間違えていい」渡辺誠CEOの逆転した内部統制論
- 【7】「履歴書も退職書類も写メを撮ってシュレッダー」渡辺誠CEOの個人情報管理
- 【8】「歩合は3か月に1回、賞与にまとめる」渡辺誠CEOの賃金コスト削減案
- 【9】「そんな情緒不安定な人はいない」渡辺誠CEOが人事部へ示した従業員観
- 【10】「顧客を右向け右で向かせる」渡辺誠CEOの感情マーケティング研修
- 【11】「10年以上働いた医師は専門医」渡辺誠CEOの広告研修は大丈夫ですか
- 【12】渡辺誠CEOの問題発言35選 7本の研修から見えた「発覚確率コンプライアンス」
- 【総評】最大の経営リスクは渡辺誠氏本人ではないか 7本の研修動画から見えた上場企業CEOの危険な経営思想
